概要:
左手の接地された自転車を漕ぐと、右手の箱からバナナが供給される。この実験器具は、チンパンジーの利他行動の観察のために制作した。作者自身の仮説 - 『進化は全ての生命の性質である自己中心性(自己保存と種の存続を第一義とする)を変化させてしまう可能性がある』 この説を展開させ、「自己中心的性質から利他的性質へと変化した生物はなんらかの進化を遂げるか」、というアイデアに関心を持った。この作品はその変化の起こりを見るための観察ツールとなるべく制作した。この試験を実際に行うための環境、実験対象など準備中である。
コンセプト:因果
仏教の考えには、世界の一切は直接にも間接にも何らかのかたちでそれぞれ関わり合って生滅変化しているという考え方がある。釈迦は原因だけでは結果は生じないとし、直接的要因(因)と間接的要因(縁)の両方がそろったときに結果はもたらされるとする。そこで、縁起と呼ぶ法によってすべての事象が生じており、「結果」も「原因」も、そのまま別の縁となって、現実はすべての事象が相依相関して成立していると考える。
「善い行いが幸福をもたらし、悪い行いが不幸をもたらす」という考え方は世界に広く見られ、社会において人間の行いを律する慣習のように機能することもある。この作品では、この因果という考え方を生物の形質の変化を促すために使用する。
手法
プロセス
1 被験者として二頭以上のチンパンジーを用意する。実験を行う環境において、チンパンジーが乗って漕ぐことができる自転車とバナナを供給する箱をある程度距離を離して接地する。自転車と箱はケーブルで接続されていて、自転車のペダルを漕ぐ運動がある一定量に達すると箱の機構が作動して自動販売機のようにバナナを箱の穴から押し出す。
2 チンパンジーたちにシステムがどのように働くか見せて覚えさせる。自転車を漕ぐことでバナナが得られることを学べるように人間がやってみせる。
3 ある程度学習が行われたと考えられたら、チンパンジーを残して観察する。
4 バナナを得るためには自転車を漕がなくてはならない、自転車と箱はある程度距離を離して接地されているため、チンパンジーが二頭以上いる場合、自転車を漕いだチンパンジーは箱の前に行く前に他のチンパンジーにバナナを取られてしまう。
ここで問題はチンパンジーはどのような行動を取るのかということである。考えられるのは、
A 自転車を漕いでも自分がバナナをが取れないことが分かって、二頭のチンパンジーとも自転車を漕がない。
B 力の強い一頭が弱い一頭に労働を強制させる
C どちらかが自転車を漕いで、もう一頭がバナナを得た後、奪い合いを始める
D 二頭のチンパンジーが共に利益を得られるよう協力して交互に労働を行う
※ Dのケースが見られた場合、RFIDといわれるタグによる認証システムによって、労働を行ったチンパンジーの運動量等を記録できるようにする。
このシステムにより、あるチンパンジーが他のものの為に多く労働を行った場合、そのチンパンジーがバナナを得る順番になったときにより多くバナナを得られるようにする。
インスタレーションビュー Kunstvlaai、アムステルダム、オランダ, 2010